企業が副業を認める背景

日本の企業では従来副業を認めない考え方が支配的で就業規則で規制をしてきました。しかし、民間企業では近年の経済グローバル化で国際的な人材の移動も進み、より能力のある人材を獲得するために人事も国際化してきました。文化的にも従来の日本企業の社員の人格まで倫理的に支配しようとする考えは間違っていて時代遅れであることは明白です。このような流れを受けて政府も働き方改革に取り組み、自由な働き方の1つとして副業・兼業の促進の流れを加速させました。外国籍の人材の導入、長時間労働の禁止では法的整備も進めました。

1.政府の働き方改革推進と副業促進

日本的雇用慣行

欧米企業文化と比較して、日本の企業文化の特色として企業単位の閉鎖性があります。ムラ的社会と言ってよいかもしれません。大企業では終身雇用制度の影響からか大学生の就職でも新卒一括採用制度があり、中途採用が少ない現状があります。また、背景として欧米では業界別の職種能力の標準化がありますが、日本では標準化の規定が乏しく業界・職種別転職の流通市場がほとんどありません。1企業内の経験の特殊性・個別性が強く、他社への移動にあたって標準的要素が乏しい点があります。

一方労働者の基本的な権利についても制限を加える土壌があり、労働者の労働時間外に行う副業についても、就業規則で制限を加え認めない慣行が支配的だと言ってよいでしょう。また、労働者の労働時間の制限についても厳格性を欠き、労働基準法の残業規定の甘さから長時間労働を多くの企業が行い、過労死問題を引き起こしてきた歴史があります。

働き方改革

同一労働同一賃金などの非正規雇用の処遇改善、 長時間労働の是正など深刻化する労働慣行の改善のために、政府は働き方改革の取り組みを進め、その中で「テレワーク、副業・兼業などの柔軟な働き方」の必要性を認める方向になりました。そして、政府は2016年12月に、副業を原則容認すると発表し副業解禁への流れが進みました。副業の解禁により一定の条件の下ではありますが、社員が副業を行うことは、様々な能力開発、スキル開発が行われ企業にとってもメリットがあり、起業家精神が生まれ経済を活性化するとの狙いがあります。

副業の進め方については、厚生労働省は「副業・兼業の促進に関するガイドライン」を発表しました。

厚生労働省「副業・兼業の促進に関するガイドライン」

https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11200000-Roudoukijunkyoku/0000192845.pdf

この中で日本の副業の実態についての現状もまとめられています。副業をめぐる裁判例では、労働者の労働時間以外の時間の利用方法などは原則自由であることが確認され、各企業においてそれを制限できるのは、労務提供上支障がある場合、企業機密が漏洩する場合、企業の名誉・信用を損なう行為や信頼関係を破壊する行為がある場合、競業により企業の利益を害する場合に限られているとしています。

一方企業に対する配慮として、副業・兼業を労働者が行う場合は、企業秘密の漏洩や長時間労働となって本業の差支えがないかなどの確認のため届け出を行うことを規定しています。その他のルールについては労使間で十分話し合って決めることとしています。

2.副業・兼業促進の方向性

前述の「副業・兼業の促進に関するガイドライン」においては副業・兼業促進の方向性についてもまとめられています。副業・兼業は労働者、企業にとってそれぞれメリットと留意点があるとしています。要約しますと次のような点です。

労働者側のメリットと留意点

<メリット>

・別の仕事に就くことによってスキルや経験をえることができ、労働者が主体的にキャリアを形成できること。

・自分がやりたいことに挑戦でき、自己実現を追求できること。

・本業を継続しながらよりリスクを少なく、将来の起業・転職に向けた準備・試行ができること。

<留意点>

・就業時間が長くなる可能性があること。

・職務専念義務、秘密保持義務、競業避止義務の意識

・複数の短時間労働就労には雇用保険の適用がないこと。

企業側のメリットと留意点

<メリット>

・労働者が企業内では得られない知識・スキルを獲得できること。

・労働者の自律性、自主性を促すことができること。

・優秀な人材の獲得、流出の防止ができ、競争力が向上すること。

・労働者が社外から新たな知識、情報、人脈を入れることで、事業機会の拡大につながること。

<留意点>

・必要な就業時間の管理と労働者の健康管理

・労働者の職務専念義務、秘密保持義務、競業避止義務の管理

以上のような点を踏まえ、政府は労働者が副業時間も含めて長時間労働にならないように配慮することを前提に、企業は不当に労働者に副業の規制を行うべきではないと提案しています。

3.副業に前向きな企業例と今後需要が高まる副業業種

副業に前向きな企業例

2018年には、銀行では新生銀行が、メーカーではユニ・チャームが副業を解禁しています。2017年には、ITではソフトバンクが、メーカーではコニカミノルタが副業を認めています。それ以前の政府の働き方改革の前から前向きに取り組む副業認可の先進企業では、リクルートホールディングス、サイバーエージェント、ヤフー、日産自動車、富士通、ロート製薬、ディー・エヌ・エーなどがあります。

製造業では不況期に生産縮小などで賃金が減った部分を補う意味で休業日に限定し解禁した経過があります。さらに最近ではIT起業を中心に副業容認が進んでいます。ただし、副業実施では事前に会社への申告が必要などの規定を設けている場合があります。

今後需要が高まる副業業種

在宅ワークが可能で作業時間の自由がきくインターネットを活用したデジタル系の仕事が最有力でしょう。WEBに関する技術系のシステム設計・プログラミング、デザイン系のWEBデザイン、イラストレーター・フォトショップを使った電子カタログ・チラシの作成、WEBライター、動画制作、音声制作などがあるでしょう。また、土日や夜間早朝の時間を使った軽作業、デリバリーなどもあります。また専門性を活かしたコンサルティングやアドバイザー業務などもあります。

4.全体的には企業はまだ副業を規制している傾向

中小企業庁委託事業「平成26年度副業・兼業に係る取組実態調査事業」では、企業における副業・兼業制度について、「副業・兼業を推進していないが容認している 14.7%」,

「副業・兼業を認めていない 85.3%」となっています。また、2018年2・3月に、独立行政法人労働政策研究・研修機構が副業について行ったアンケート調査(従業員100人以上の企業2,260社、労働者12,355人からの回答)では、企業が「副業を許可する予定はない」としたのが75.8%、労働者も「副業をするつもりはない」としたのが56.1%となっています。

いずれの調査でも、日本の企業にはいまだ副業を規制する企業文化があり、労働者もその規制下にあることがうかがえます。多くの企業が自社の就業規則において副業を禁止している背景があり、簡単には就業規則を変えられない点があります。中堅企業、中小企業ではオーナー企業も多く、副業に関する労働者の関心が高くなると自社の生産性にとってマイナスとの判断が強い傾向があり、労働者の基本的な権利を認めさせていくにはまだ壁があります。

まとめ

副業に関する法的な規定や規制は民間企業の場合特にはありません。基本的には、労働者の労働時間外の自分の時間の使い方は自由です。ただし一定の配慮が必要とのことです。本来は公務員も労働者としての基本的人権はあります。日本の公務員の労働では本業以外の業務の規制が法的にもありますが、近年一部の地方自治体では副業を容認する場合の例などを示した状況も出てきました。伝統的に行われている農業などとの兼業、アパート経営などです。さて、日本の副業は実際には広く行われていますが会社には秘密で行われています。副業解禁は始まったばかりですが、政府が副業解禁を示した以上今後拡大することは間違いありません。