副業のリスクマネージメント (ケガをしたら保険はどうなる?事故責任はだれが負う?など)

副業でも作業系の仕事や運転に関する仕事では事故やケガが心配です。また、副業の通勤中の事故はどのように扱われるのでしょうか?これらの対応は事前にある程度のリスクマネージメントの知識がないと適切な申告ができず、リスクを個人が負う危険性があります。多少でも危険性のある仕事では、事故対応と保険について仕事に就く前に確認しておいた方が良いです。企業によっては非正規ではあっても雇用形態であるアルバイトなどへの保証対応が不明確な場合があります。また、副業の会社での事故は本業の会社へは申告できません。個人の請負契約だと会社により事故は請負者の自己責任と切り捨てられる危険性もあります。請負者のリスクは自分にかかってくる場合以外に、他人に対しての損害賠償の危険性もあり心配です。保証の対応につき保険の種類別に見てみましょう。

1.労災保険の適用性

労災保険とは、業務上の事由または通勤による労働者の負傷、疾病、障害、死亡に対して、労働者やその遺族のために必要な保険給付を行う制度です。仕事をしていてケガをしたなど、業務上の災害で被った傷病を業務災害と言います。また、労働者が通勤時に被った傷病を通勤災害と言います。労働者には正社員でなくてもアルバイト、パートなどすべての労働者が含まれますので、副業であれその仕事中に発生したケガであれば労災を申請できます。

厚生労働省の「副業・兼業の促進に関するガイドライン」でも下記のように説明されています。

https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11200000-Roudoukijunkyoku/0000192844.pdf

副業・兼業に関わるその他の現行制度について

労災保険の給付(休業補償、障害補償、遺族補償等)

事業主は、労働者が副業・兼業をしているかにかかわらず、労働者を1人でも雇用していれば、労災保険の加入手続を行う必要がある。なお、労災保険制度は労働基準法における個別の事業主の災害補償責任を担保するものであるため、その給付額については、災害が発生した就業先の賃金分のみに基づき算定している。

また、労働者が、自社、副業・兼業先の両方で雇用されている場合、一の就業先から他の就業先への移動時に起こった災害については、通勤災害として労災保険給付の対象となる。

(注)事業場間の移動は、当該移動の終点たる事業場において労務の提供を行うために行われる通勤であると考えられ、当該移動の間に起こった災害に関する保険関係の処理については、終点たる事業場の保険関係で行うものとしている。(労働基準局長通達(平成18 年3月31 日基発第0331042 号))

なお、労災保険は、会社が必ず入らなければならないものであり、保険料は個人の労働者ではなく、全額事業主が負担します。

ただし副業がアルバイトなどの企業の直接雇用ではなく、個人の請負形態の場合が問題です。会社は社員ではないので労災適用はできないと主張する可能性があります。

個人で起業している場合はどうなるでしょうか。労災保険は経営者の加入はできません。ただし、個人事業主であっても個人タクシー業者や個人貨物運送業者、大工やとび職人などの労働者に準じて保護することが適当であると判断される事業である場合は、労災保険に特別加入することができます。

2.健康保険の適用性

会社の勤務者が加入している健康保険制度では、「労働者の業務外の事由による疾病、負傷若しくは死亡又は出産及びその被扶養者の疾病、負傷、死亡又は出産に関して保険給付を行う」と法律で規定されているので、業務上の事故には適用できません。しかし、実際には副業では労災保険適用が難しく、個人負担による健康保険で対応せざるをえない場合もあるかと思います。

厚生労働省の「副業・兼業の促進に関するガイドライン」では社会保険について次のように説明しています。

「社会保険(厚生年金保険及び健康保険)の適用要件は、事業所毎に判断するため、複数の雇用関係に基づき複数の事業所で勤務する者が、いずれの事業所においても適用要件を満たさない場合、労働時間等を合算して適用要件を満たしたとしても、適用されない。また、同時に複数の事業所で就労している者が、それぞれの事業所で被保険者要件を満たす場合、被保険者は、いずれかの事業所の管轄の年金事務所及び医療保険者を選択し、当該選択された年金事務所及び医療保険者において各事業所の報酬月額を合算して、標準報酬月額を算定し、保険料を決定する。その上で、各事業主は、被保険者に支払う報酬の額により按分した保険料を、選択した年金事務所に納付(健康保険の場合は、選択した医療保険者等に納付)することとなる」

本業が明確な場合は主たる企業での社会保険適用となります。

3.傷害保険の適用性

個人の負担で任意に加入する保険に民間の普通傷害保険があります。普通傷害保険は、一般的に補償の対象となる人(被保険者)が、「急激、かつ偶然な、外来の事故に遭いケガをした場合」に適用される保険です。なお損害賠償保険のように「日常生活において」という前置きがないので、仕事上のケガにも適用されます。ただし特約で対象が規定されている場合もあります。費用の個人負担での民間保険でのリスク管理ですので、会社の労災保険との併用は可能です。

4.損害賠償保険の適用性

アルバイトでも雇用される形態であれば業務上の事故については会社が賠償責任を負います。偶然な事故により、身体障害と財物損壊が発生した場合の損害を補償します。

業務上の賠償責任保険は会社など団体で入るもので個人では入れません。一般に賠償責任保険という場合には、自動車保険のように独立した保険商品や、他の保険商品に付帯する特約は除かれますがこれらも広義の賠償責任保険には含まれます。

賠償責任保険の支払いとなる損害は次のようなものです。 

①損害賠償金:法律上の損害賠償が発生した場合の治療費や修理費用を支払います。 

②物の賠償:修理額が時価を下回る場合は修理額が賠償金になります。修理額が時価を上回る場合はその物の時価額が賠償金になります。 

③使用不能損害:修理期間中の使用不能に基づく営業損失が対象になります。 

④身体障害の損害 

  • 死亡保険金:治療費、葬儀費、逸失利益、慰謝料
  • 傷害保険金:治療費、通院交通費、看護費、入院雑費、休業損害、慰謝料
  • 後遺障害保険金:逸失利益、慰謝料

⑤被害者の治療費:治療費の内払い(限度額があります。) 

などです。

個人賠償責任保険は、日常生活で他人の物や人の事故を弁償する時に適用されるもので、業務中の事故には適用されません。自転車保険などもそうです。

自動車保険では、法律によって加入が義務づけられている強制保険があります。自動車損害賠償責任保険です。自動車損害賠償責任保険(自賠責保険)は、自動車(オートバイを含む)、原動機付自転車の運行により他人を死傷させた場合において、その被害者に対し車両の運行供用者が損害賠償の義務を負う場合に、その車両の運行供用者が被る損害(賠償額)を担保する保険(賠償責任保険)で、会社が加入するものです。労働者個人が賠償するものではありません。自賠責保険だけでは保険の限度額の面や、被保険者自身の補償の面で不十分であり、任意で加入できる保険商品が民間の保険会社などから販売されており任意保険と言われます。

まとめ

副業における業務上のケガはとかく泣き寝入りになりがちです。労災保険がアルバイトには適用されないというのは間違いです。会社が労災保険の保険の手続きが面倒なだけです。しかし、副業者も申請手続きが面倒なこともあり本来はダメな一般の健康保険で対応している場合もあるでしょう。

他人にケガをさせた場合はより深刻です。自動車運転については特に事故の危険性から、強制保険、任意保険などの会社の加入状況と責任負担は仕事をする前に確認しておくべきでしょう。