副業を認めていない企業でも、労働時間外の個人としての自由な時間まで規制することは法的にはできません。法律が規制しているのではなく、企業の就業規則で規制しているだけです。就業規則も時代とともに変えなければならないのですが変えられていないだけです。法的には副業一律禁止の就業規則だけで副業を行った社員を罰することはできません。しかし、副業を認めていない会社で副業を行っていることが明らかになった場合、会社の攻撃を食らう危険性はあります。やはり一定の注意が必要でしょう。
1.自分自身の注意点
自分自身が注意しなければならない点を考えてみましょう。
①親しい会社の同僚にも副業をしていることを話さないこと
副業をしていることが明らかになることはめったにありません。可能性としてはまず自分から親しい会社の同僚に酔った勢いなどで話すことが原因です。軽い気持ちで話しても、同僚から会社の上司に伝われば悪くとらえられる場合があります。副業で稼いでいる人をうらやましく思ったり嫉妬することがありえます。
②ネットのビジネスでは実名を出さないこと
ネットで物品販売をしたりサービスを提供したりする場合、特定商取引法などの法律にもとづいて、運営者の所在地や代表者の名前を表記する義務があります。代表者を配偶者や友人などで名前が出ても大丈夫な人にしておくことが必要です。その他ネット上の副業に関することではビジネスネームで行うと共に屋号・ブランド名での活動も必要です。
③講師などの副業ではビジネスネームを
講師は自分自身の名前が商品なので、ビジネスネームで活動する方法があります。原稿を書く上ではペンネームという形になります。
④会社の人、仕事先の人などと顔を合わす可能性のある場所の仕事は避けること
土日などの休日に自宅周辺で仕事をしている場合などは、会社の関係者と顔を合わす可能性は低いと思われます。しかし、駅周辺や集合施設などの仕事では顔を隠すこともできず、副業を行っているのを見られてしまう可能性もあります。
2.その他の理由で副業をしていることが明らかになる可能性は?
その他の理由で副業をしていることが明らかになる可能性はほとんどありません。
副業で年間20万円以上の利益が出た場合は個人で確定申告を個人で行う必要がありますが、所得税を税務署へ支払えばよいので、会社には副業所得の情報はいきません。
関係あるとすれば住民税です。住民税は会社で特別徴収という形を採用している企業が多く、住民税は1年間の給与を含めた所得の総額で決定するため会社に通知がいきます。住民税の金額が給料と比較してあまりに大きい場合や毎年大きく変動している場合は、給料計算する人が不審に思う可能性があるかという点です。会社の住民税の作業は年一回の入力業務しかありませんので、忙しい給料計算をする人がそこまで気が付くのかという問題ですが一般的には気が付かないでしょう。その場合でも、金融投資で大きく儲かった、儲かった時もあればその年により変動している、などの理由で説明する方法もあります。
3.就業規則違反と会社が主張した場合の反論
もし万一会社が副業について就業規則違反だと警告を発してきたならば、政府の副業解禁の方向を自らの正当性主張のために伝えることが大切です。政府も裁判例を踏まえれば企業は副業・兼業を認めるのが適切であるとしています。副業・兼業を禁止もしくは一律許可制にしている企業は、副業・兼業が自社の業務に支障をもたらすものかかどうか精査し、そのような事態がないならば、労働時間以外の時間については原則副業・兼業は認められるべきとしています。
基本的に労働者は、労働時間以外の時間については自由であること、また、会社に迷惑をかけるような行為がない限り、副業を禁止する就業規則は無効であり、変更しなければならないと主張することができます。
法的な裏付けとしては、第1に、憲法で職業選択の自由(憲法22条1項)が認められています。したがって勤務時間外の時間をどう使うかは個人の自由です。第2に、就業規則は、労働基準法に定める基準以上かつ内容を合理的なものとしなければなりません(労働基準法93条、労働契約法第7条)。会社が定めた副業禁止規定の内容が合理的でないならその効力は無効と考えるべきです。会社が副業の制限を設ける場合には明らかに合理的な基準が設定されていなければなりません。会社の機密漏洩の禁止などの要件です。
副業・兼業について厚生労働省が新しく定めた下記のモデル就業規則があります。
モデル就業規則(副業・兼業)
第67条 労働者は、勤務時間外において、他の会社等の業務に従事することができる。
2 労働者は、前項の業務に従事するにあたっては、事前に、会社に所定の届け出を行う
3 第1項の業務に従事することにより、次の各号のいずれかに該当する場合は、会社は、禁止又は制限することができる。
①労務提供上の支障がある場合
②企業機密が漏洩する場合
③会社の名誉や信用を損なう行為や、信頼関係を破壊する行為がある場合
④競業により、企業の利益を損なう場合
厚生労働省副業関連ホームページ
・副業・兼業全体
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000192188.html
・副業・兼業促進に関するガイドライン
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11200000-Roudoukijunkyoku/0000192844.pdf
・モデル就業規則
4.会社の就業規則違反に関する解雇権濫用判例
会社が就業規則で副業を禁止し社員を解雇した事件で、会社の解雇は解雇権の乱用にあたり無効とされた判例です。就業規則に定められた副業禁止規定に形式的に反するだけでは解雇は認められず、やむをえない事情の存在が必要になります。裁判例では「会社の企業秩序を乱し、会社に対する労務の提供に格別の支障を来たす程度のもの」といった要件が課されています(客観的に合理的な理由)。さらに、副業禁止違反の態様や程度と比較して解雇という処分が妥当といえることも必要です(社会的相当性)が必要です。労働契約法16条では、「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。」とあり、兼業禁止規定に違反した場合の解雇にもあてはまります。厚生労働省のホームページ「副業・兼業に関する裁判例」から紹介します。
○ マンナ運輸事件(京都地判平成24年7月13日)
【概要】
運送会社が、準社員からのアルバイト許可申請を4度にわたって不許可にしたことについて、後2回については不許可の理由はなく、不法行為に基づく損害賠償請求が一部認容(慰謝料のみ)された事案。
【判決抜粋】
労働者は、勤務時間以外の時間については、事業場の外で自由に利用することができるのであり、使用者は、労働者が他の会社で就労(兼業)するために当該時間を利用することを、原則として許さなければならない。もっとも、労働者が兼業することによって、労働者の使用者に対する労務の提供が不能又は不完全になるような事態が生じたり、使用者の企業秘密が漏洩するなど経営秩序を乱す事態が生じることもあり得るから、このような場合においてのみ、例外的に就業規則をもって兼業を禁止することが許されるものと解するのが相当である。
○ 十和田運輸事件(東京地判平成13年6月5日)
【概要】
運送会社の運転手が年に1、2回の貨物運送のアルバイトをしたことを理由とする解雇に関して、職務専念義務の違反や信頼関係を破壊したとまでいうことはできないため、解雇無効とした事案。
【判決抜粋】
原告らが行った本件アルバイト行為の回数が年に1、2回の程度の限りで認められるにすぎないことに、証拠及び弁論の全趣旨を併せ考えれば、原告らのこのような行為によって被告の業務に具体的に支障を来したことはなかったこと、原告らは自らのこのような行為について会社が許可、あるいは少なくとも黙認しているとの認識を有していたことが認められるから、原告らが職務専念義務に違反し、あるいは、被告との間の信頼関係を破壊したと
までいうことはできない。
○ 東京都私立大学教授事件(東京地判平成20年12月5日)
【概要】
教授が無許可で語学学校講師等の業務に従事し、講義を休講したことを理由として行われた懲戒解雇について、副業は夜間や休日に行われており、本業への支障は認められず、解雇無効とした事案。
【判決抜粋】
兼職(二重就職)は、本来は使用者の労働契約上の権限の及び得ない労働者の私生活における行為であるから、兼職(二重就職)許可制に形式的には違反する場合であっても、職場秩序に影響せず、かつ、使用者に対する労務提供に格別の支障を生ぜしめない程度・態様の二重就職については、兼職(二重就職)を禁止した就業規則の条項には実質的には違反しないものと解するのが相当である。
○ 都タクシー事件(広島地決昭和59年12月18日)
【概要】
隔日勤務のタクシー運転手が、非番日に輸出車を船積みするアルバイトに月7、8回たずさわったことを理由とする解雇に関して、労務提供に支障が生じていないこと、他の従業員の間でも半ば公然と行なわれていたとみられること等の事情から、具体的な指導注意をしないまま直ちになした解雇は許されないとした事案。
【判決抜粋】
就業規則において兼業禁止違反の制裁が懲戒解雇を基準としていること等に照らすと、就業規則によって禁止されるのは会社の秩序を乱し、労務の提供に支障を来たすおそれのあるものに限られると解するのが相当である。タクシー乗務の性質上、乗務前の休養が要請されること等の事情を考えると、本件アルバイトは、就業規則により禁止された兼業に該当すると解するのが相当である。しかしながら、現実に労務提供に支障が生じたことをうかがわせる資料はないこと、従業員の間では半ば公然と行なわれていたとみられ、かつ、アルバイトについての具体的な指導注意がなされていなかったこと、・・・(中略)・・・等の事情を綜合すると、何らの指導注意をしないまま直ちになした解雇は(懲戒解雇を普通解雇にしたとしても)余りに過酷であり、解雇権の濫用として許されないものと認めるのが相当である。
・厚生労働省ホームページ 副業・兼業に関する裁判例
まとめ
就業規則の作成は使用者が一方的に決めることができるものではなく、労働者の過半数の労働組合または労働者の過半数代表者の意見を聴くことが義務付けられています。さらに、労働者の過半数の労働組合または労働者の過半数代表者からの意見書を添付し、所轄労働基準監督署に届け出る必要があります。(労働基準法第89条・90条)。このような手続きを経て決められた就業規則かどうかも問題です。副業を就業規則で禁止しているとしている企業においてはまず就業規則の内容を調べてみましょう。